人名を詠み込むとき、フルネームの長い名前をどこまで省略するかという問題が生じる。省略して誰のことかわからなくなっては句の意味をなさない。
ジョン・レノン(1980年12月8日没)は比較的頻繁に詠み込まれる故人だ。レノン忌はいいとして、ジョン忌は通用しない。むかし「ジョンの声」という5音含みの句を見て、犬の声と信じて疑わなかったが、作者の意図はそうではなかったらしい。
フルネームでしかわからない名前、例えばヘンリー・ジェイムズ(1916年2月28日没)、あるいは苗字だけでも長い名前、それらを詠み込むと、字余りになってしまうこともある。その場合、方法はふたつ、字余りにするか、詠まないか、しかない。
網野善彦忌に未知の誰かの死 吟
この句など、フルネームを詠みながら、うまく575に収まっている。あみのよし/ひこきにみちの/だれかのし。
福翁忌たまに早稲田と間違える 野口裕
福沢諭吉は、ヴァリエーションが効く。福沢忌でもまあまあわかってもらえそうだし、諭吉は、ほかに思い当たらない。掲句の「福翁」なら、もうバッチリである。
ところで、慶応大学と早稲田大学、福沢諭吉はどっちだっけ?と。関係者以外は、あんがいそんなものでしょう。
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黄金の焦しバターやクリムト忌 猫髭
香り立つような色ですね。この句はクリムトとの距離感がオツ。
ずぶぬれて顕信忌 露結
まんま距離をとらない手もあります。
■さいばら天気 さいばら・てんき
1955 年 兵庫県生まれ。1997年「月天」句会で俳句を始める。1998~2007年「麦」在籍。現在「豆の木」会員。現代俳句協会会員。2003年「麦」新人 賞、05年、06年「豆の木賞」受賞。ブログ「俳句的日常」「七曜堂」 twitter