選者=小林苑を
忌日というのは濃いなと思う。なにごとかを成し遂げた、成し遂げとは言えないとしても、一生が完結した人ということなので、当然か。人名句と少しだけ違うとしたら、そこだと思う。
だから忌日を詠み込むとなると、そこで書くか、離れるかということになる。離れるとは、誰かが生きて、そして死んだ日も、こんな風に日常或いは世界はあるというわけだけれど、実は関係ない「ふり」なのだと伝わらないと忌日句にはならない。結果、忌日俳句も濃いめになるのだと思う。
〔今週の一句〕
壁があるカンディンスキー忌の壁だ 露結
そこで書くという位置そのものを句にしたという点で、離れてもいるという意匠の優れた句で唸った。
カンディンスキーの壁ではなく、カンディンスキー忌の壁だというのだから、言っていることは「ある日のある壁」というだけのことである。だけれども、読み手の前にははっきりと壁のようなカンディンスキーの絵が立ちふさがる。カンディンスキーの絵が壁のようだと言われて、私はひどく納得した。
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腕組めば仰木彬の忌なりけり 露結
目の前に監督仰木彬が立っているとしか言いようがない。胸が熱くなる。
すれちがふ顔みな岸田今日子の忌 露結
思わず笑ったけれど、これは怖い。姉さんならもっと怖い。姉妹ならそれはそれで。
しづかなる道頓堀やカーネル忌 露結
離れてる「ふり」の優れた句。
力道山忌や角栄忌はそこで句群、マンガーノ忌やユルスナール忌は離れた句群なのも面白かった。
■小林苑を こばやし・そのを
1949年東京生まれ。「里」「月天」所属。
2 件のコメント:
小林苑を様
ありがとうございます。
こんなに取り上げていただくなんて。
何と言いますか、タマリマセン。
いま、選んだ本人も驚いてます。
句会でもこんな経験はないような気がします。
天気さんから送られた無記名の対象句一覧から選句させていただきました。
いい句はいろいろあったのですが、決め手はこの忌日でなければ、でした。
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